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大阪地方裁判所 昭和44年(行ク)21号 決定

申立人 斎藤俊一

被申立人 八尾市市議会

主文

被申立人が昭和四四年七月七日申立人に対してなした市議会議員除名処分の効力を本案判決確定に至るまで停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一、申立人の申立の趣旨並びに主張は別紙(一)、(二)記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙(三)記載のとおりである。

疎明として、申立人は疎甲第一乃至第四九号証(但し第四三号証は欠号)を提出し、被申立人は疎乙第一乃至第二五号証を提出した。

二、当裁判所の判断

(一)  裁判権の存否について

被申立人は、地方議会議員の除名処分については、裁判所による司法審査が許されないと主張する。

言うまでもなく、裁判所がいかなる事項について裁判権を有し、または有しないかは、憲法及びこれをうける裁判所法の定めるところによつて決定さるべき事柄である。そして、裁判所法はその第三条で、「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」と規定しているから、地方議会議員の除名処分について裁判所が裁判権を有するか否かは、かかる除名処分に係る争訟が右規定に言うところの「法律上の争訟」に該当すると言うべきものか否かによる。

而して、憲法は三権分立の原理を採用しており、この原理は国家作用のうち国民の間に法律上の紛争がある場合に何が法であるかを判断し正しい法の適用を保障する作用を司法と呼び、これを裁判所の権限に属せしめているのであるから、ここに言う「法律上の争訟」とは、具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であつて、法律の適用により当該紛争が終局的に解決され得べきものであり、そのような解決方法が当該紛争の性質に照して適当なものを言うものと解するのが相当である。

ところで、法的な現象は人の社会に普遍的なものであり、国家という社会だけに限られるものではなく、人の社会には国家のほかにも各種の社会が存在し、各社会はそれぞれの法秩序をもつているのであるから、その特殊的法秩序の実現は内部規律の問題として原則として当該社会の自治的措置に任せるべきであり、これを裁判によつて実現することは必ずしも適当でない場合があるといわなければならない。地方議会において地方自治法第一三二条、一三三条その他及び会議規則違反等を理由に懲罰の議決(同法第一三五条)をすることも、この特殊的法秩序実現のための措置であるから、それが内部規律の範囲内に属するものである限り、当該議決に関する紛争を裁判の方法によつて解決することは適当でないというべきである。

然しながら、右のような懲罰に関する議決であつても、議員の除名処分の如きは議員の身分を終局的に喪失させ、これを当該社会(地方議会)の外に放逐する重大な措置であるから、それは最早内部規律の問題の範囲を越えるものといわざるを得ない。蓋し、一旦その社会から放逐された者は最早当該社会を構成する内部の一員ではあり得ず、いまや特殊的法秩序とは次元を異にする一般市民法秩序を基盤として外部から当該社会に対立する関係として把握さるべきものだからである。地方議会議員の除名処分に関する紛争は「法律上の争訟」として裁判権の対象となるものというべきである。

(二)  行政事件訴訟法第三〇条の主張について

被申立人は、「議会の除名処分は行政事件訴訟法第三〇条にいう裁量処分であるから、その適否の判断については議会の判断が尊重されなければならない。」という。この主張がいかなる法律上の主張をするものであるか必ずしも明確でないが、その主張とするところは要するに、裁量処分については当、不当の問題が生ずることはあつても違法の問題の生ずる余地はないから、かかる裁量処分たる本件除名処分について取消の訴を提起することは許されないものであり、本件本案訴訟は不適法であると言うものと理解されないでもない。

いかにも、行政作用は法のもとで法の規制をうけながらも、現実具体的に国家目的の積極的実現をめざして広範多岐の分野に亘るものであるから、その中には行政の政策的見地、高度に専門技術的な見地等から法が行政権の判断に優先権を認めるべきものとして、裁判所の判断をもつて行政庁の判断に置き代えることを不適当としている事項、いわゆる裁量事項の存することは否定できない。行政事件訴訟法第三〇条の規定はこの事理を当然の前提としているものと言うべきである。

然しながら、地方議会議員に対する除名処分は、現に議員が保有している議員たる地位を剥奪して不利益を与える処分であり、その要件事実は地方自治法第一三四条に明定されていて、一般的に承認された解釈法則、価値基準によつて一義的に判断され得るものであるから、これを行政事件訴訟法第三〇条にいう裁量処分と言うことはできない。

被申立人の主張に理由がないことは明らかである。

(三)  本案係属の適否について

被申立人は「執行停止の申立には、その本案の訴が裁判所に適法に係属していることを要するところ、本件本案の訴は地方自治法第二五五条の三、第二五六条に規定されている知事の審決を経ておらず、行政事件訴訟法第八条第二項第二号の要件を具備していないから、同法第八条第一項但書に違反する不適法な訴である。」と主張する。

いかにも、本件本案の訴は昭和四四年九月八日に提起されたが、それから今日までも未だ知事の審決がなされるに至つていないことは申立人の自認するところである。

然しながら、申立人が昭和四四年七月一八日、地方自治法第二五五条の三の規定に基づき、大阪府知事に対し市議会議員除名処分(以下本件除名処分という)について審決を申請し、更に同年八月一八日、右審決手続において同知事に対し本件除名処分の執行停止を申立てたこと、同知事は同年九月六日右執行停止申立を棄却したことは当事者間に争いがなく、成立を認める疎甲第一七、一八、一九、二七、四二号証によれば、大阪府知事は、審決申請後二カ月を経過した今日までもなお審決をなすに至らず、他方八尾市議会では九月定例市議会が九月下旬には招集される見込であり、右招集日までに右審決がなされる見込はなく、従つて、このままでは申立人が九月定例市議会において議員としての職務を遂行できないことが認められるのであるから、このような事情を考慮すれば、申立人の市議会議員除名取消の訴(本案の訴)は、行政事件訴訟法第八条第二項第二号にいう「処分により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当する適法なものというべきである。

(四)  執行停止の必要性について

成立を認める疎甲第七、二七、二八、二九号証によれば、申立人は、昭和四二年四月八尾市議会議員選挙に当選し、昭和四四年七月七日当時日本共産党八尾市議会議員団長、八尾市議会の議会運営委員、総務委員、広域行政特別委員、農業委員、大阪八尾両市行政協力委員、国民健康保険運営協議会委員、国際貿易促進八尾市議会議員連盟会長の地位にあり、片岡マサ議員とともに日本共産党八尾市議会議員団を構成し、議会運営委員会に複数議員団として参加する資格を有していたが、本件除名処分によりその資格を喪失し、議員としての活動や職務の遂行が不能に帰すると共に、党としての議会活動にも支障をきたすおそれのあることが認められる。

而して、議員の職務の遂行は、住民の代表として議会における質疑、討論、報告その他の発言、並びに表決による意思決定に参加して住民の福祉向上に努力することをその本来の目的とするものであり、議員として報酬その他財産的利益を得ることは副次的な目的にすぎないというべきであるから、このような議員たる地位の性格、前記認定にかかる申立人の八尾市議会における地位及び役割りを合せ考慮すれば、申立人が本案判決確定に至るまで議員としての権利を行使できないならば回復困難な損害を蒙るおそれがあり、同人にはこの損害を避ける緊急の必要(行政事件訴訟法第二五条第二項)があるというべきである。

被申立人は、そのような損害を避けることは個人の権利救済と何のかかわりもない事柄であると主張するけれども、議員たる地位は被選挙権を有する国民個人の自発的な立候補の意思に基づき、個人的にも精神的、肉体的且つまた経済的に多大の努力を要する選挙を通じて始めて獲得される地位であつて、前記のような活動や職務の遂行はかかる地位を獲得保有している者でこそなし得るものであるから、本件除名処分に伴つて生ずる前記損害は、公の機関たる議員としての損害であると同時に、原告個人の権利、利益を侵害するものというに妨げなく、被申立人の主張は当らない。

(五)  除名処分の適法性について

被申立人は、「本件除名処分は地方自治法第一三二条、第一三四条、八尾市議会会議規則第一〇九条に基づく適法な処分であつて本案の理由がないこと明白である。」と主張する。

本件除名処分が「申立人が昭和四四年六月二八日、八尾市市議会本会議において八尾市長に対してなした代表質問の内容が、同市市議会会議規則第一〇九条にいう「議会の品位」を傷つけた。」ことを理由とするものであることは当事者間に争いがない。

ところで、議会政治は、住民の多元的な利害や異つた意見を住民の代表たる議員を通じて共通の討議の場に導入し、審議の過程においてそれらの調整と統合を図ることをその本質とするものであるから、各議員間並びに各政党間に諸々の政策についての意見の対立が存在することは当然であり、議会における議員の言論活動は慎重に保障されなければならないのであつて、議会は、議員の言動が正常な議員活動の範囲を逸脱して「無礼な言葉の使用、又は他人の私生活にわたる言論」に該当する場合等、特に法律並に会議規則及び委員会に関する条例に違反した場合に限り、当該議員に対して懲罰権を発動し、共通の討議の場である議場の秩序の維持、議会運営の円滑をはかり、議会の品位を自律的に保持することができるにすぎないものというべきである(地方自治法第一三四条)。

従つて、申立人の前記代表質問の内容が、地方自治法第一三四条第二項に基づいて定められた八尾市市議会会議規則第一〇九条にいう「議会の品位」を傷つけたか否かも、右のような立場に立つて判断されるべきであり、しかも除名処分は、懲罰のうちでも住民の選挙によつて選ばれた議員の地位を剥奪する結果を生ずる最も厳しい処分であるからそれに応じて当該議員の言動が正常な議員活動としての範囲を著しく逸脱し、甚だしく議会の品位を傷つけたと判断される場合にのみ適法なものとして是認されると解すべきである。

そこで、本件事案を検討するに、いずれも成立を認める疎甲第一号証(代表質問速記録)、第二号証(懲罰動議)、第三号証(懲罰特別委員長報告)、第四一号証(市議会会議録)疎乙第二〇号証(政友会幹事長畑中正一の陳述書)第二一号証(社会クラブ幹事長野津昌己の陳述書)、第二二号証(公明党幹事長大村清の陳述書)、その他すべての資料を検討しても、なお未だ申立人の八尾市長に対する前記代表質問の内容が正常な議員活動としての範囲を著しく逸脱し、除名処分に値する程度に議会の品位を傷つけたと認めるに足るものはない。

そうすれば、本件申立が行政事件訴訟法第二五条第三項にいう、「本案について理由がないとみえるとき」に該当するということはできないのである。

(六)  公共の福祉に及ぼす影響について

被申立人は、「本件申立が認容される場合には、市民の間に混乱を生ぜしめ、被申立人に対する不信感を生ぜしめ、ひいては市政に重大な支障をきたすおそれがある等、行政事件訴訟法第二五条第三項にいう、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ、がある。」と主張するが、これを認めるに足る疎明はない。

(七)  むすび

以上の次第であるから、申立人の申立は理由があるのでこれを認容することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 井上三郎 藤井俊彦 小杉丈夫)

別紙(一)

行政処分執行停止申立書

申立の趣旨

被申立人八尾市議会が昭和四四年七月七日、申立人に対してなした除名決議は、当庁昭和四四年(行ウ)第八三号市議会議員除名処分取消請求事件の本案判決確定に至るまで、その効力を停止する。

との裁判を求める。

申立の理由

第一、申立人の身分関係

申立人は、昭和二四年一二月大阪府中河内郡高安村村議会議員補欠選挙に日本共産党公認候補者として立候補当選以来、昭和三〇年市町村合併により八尾市に合併されて後も、市議会議員選挙の都度当選、通算六期に亘り、村、市議会議員を務め、現に昭和四四年六月一六日被申立人本会議に於て、「永年にわたり議会の運営に多大の貢献をした」ことを理由に全国市会の表彰を受けている。

昭和四二年四月の市議会議員選挙においては、定員三六名、立候補者四八名中二五位、得票数一、七〇三票で当選し、同じく一八位一、八二五票で当選した片岡マサ議員と共に、日本共産党八尾市議会議員団を組み、議員団長の職にある。

八尾市議会に於ては総務委員長、同副委員長、監査委員、決算委員その他を歴任し、現に昭和四四年七月七日現在、議会運営委員会委員、総務委員、広域行政特別委員であり、又、市議会選出の農業委員であり、国際貿易促進八尾市議員連盟会長、国民健康保険運営協議会委員を兼ねている。

第二、除名処分の存在及び理由

一、被申立人は、昭和四四年七月七日の本会議に於て、申立人を除名する旨の決議をなした。

二、除名理由は、右本会議に於ける木田懲罰委員会委員長の別紙報告のとおりであるが、その結論を摘記すれば次のとおりである。

すなわち、「委員会は、議員の一身上の重大な問題でもあるので、斉藤議員の弁明を聴取し総括討議を重ねた結果、懲罰理由である予断と偏見および地区住民組織を分断し、混乱に落し入れたと言う提案理由と代表質問の内容に検討を加えた結果、公営住宅建設戸数はすくないが、住宅入居については地区住民の解放運動を理解している人を入居させている関係で時間はかかるが住宅ができているのに入居できないと言う表面上の現象をとらへて批判することは部落内の苦しい解放運動の実情を理解しようとしない偏見にみちた行為である。また市行政においても決して同和問題に対して投げやりな姿勢をとつているものでもない。

よつて、代表質問の中に指摘されておる市行政の怠慢云々と言つた内容についても大きな誤りと矛盾がある。以上解明されたごとく斉藤議員の発言は明らかに客観的差別の言辞であると断定せざるを得ないのであります。従つてこの行為は国民的課題としての部落解放運動を阻害するものであり、同対答審を尊重し、解放運動を推進する八尾市議会の方針に逆行し、予断と偏見により市民を混乱におとし入れ著しく議会の品位を傷つけるものであります。」

三、その「論旨」は、要するに、〈1〉、「住宅ができているのに入居できない」ということを批判することは「部落内の苦しい解放運動の実情を理解しようとしない偏見にみちた行為」であり、〈2〉、同和問題に対して「市行政の怠慢云々」という指摘には「大きな誤りと矛盾」があるのであつて、右の〈1〉および〈2〉の発言は「客観的差別の言辞」であるから、申立人がかかる代表質問をおこなつたことは「著しく議会の品位を傷つけるもの」だというのである。

第三、本件除名処分の違法性

一、議会内における議員の言論活動の内容にたちいたつて、議会は懲罰することは出来ない。

(一)、申立人に対する本件除名処分の理由は前述のとおり申立人のなした代表質問が差別的発言であるというように、その発言内容そのものを問題としていること明らかである。

(二)、しかしながら議会は議会内における議員の言論活動の内容にたちいたり、その見解の不当性を理由として懲罰することは許されない。

いうまでもなく、地方議会の議員は、選挙を通じて地方住民の参政権を託され、住民の要求の実現と福祉の増進のため、議会内外において、その職責を果すべき地位にある。

地方議会の議員はこの意味において、地方住民の参政権を託された代表民主制を遂行すべき、憲法九二条の地方自治の本旨にもとづく重要な職務を担つているといえよう。

なかでも議会内における議員の活動の中心は、議案や、行政当局に対する行政についての、審議、質問、表決等を通じての活動であるから、これらの言論活動は憲法九二条の趣旨および憲法二一条の表現の自由に関する活動として、憲法上も最大の保障をされねばならない。

これらの議員の言論、ことにそれはすぐれて政治的言論であつて、その発言の内容がたとえ国の政治の方向に反するものであれ、又自治体の方針に反するものであれ、その見解について何らの制約や限定を受けるものではない。

そのことの当否は、あげて有権者の批判にまつべきものであり、その内容如何によつて懲罰の対象とされてはならない。このことは議会制民主主義の根本である。

(三)、ところで、地方自治法第一三四条は、地方議会における懲罰の原則として「普通地方公共団体の議会は、この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる。懲罰に関し、必要な事項は、会議規則中にこれを定めなければならない」と規定しており、それを受けて、同法第一三二条は、「普通地方公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない」と規定し、また八尾市議会会議規則第一〇九条は「議員は、議会の品位を重んじなければならない」と規定している。

これらによれば、およそ多数政党政派から成り立つ合議体である議会の性質上、議員に対する懲罰事由は極めて厳格に制限されており、いやしくも議員の言論の内容如何又はその見解の如何によつて懲罰の対象とするなど多政党の横暴を許すようなものでないことは極めて明白であり、たゞその表現が地方自治法第一三二条にいう、「無礼の言葉」とか「他人の私生活にわたる言論」にあたる場合などとかまた八尾市議会会議規則第一九条にいう「議会の品位」をそこねるような場合のみが懲罰の対象となしうるに過ぎないことを確認しているのである。

最高裁判所も「地方自治法一三四条一項が議員の懲罰を規定しているのは、議会の秩序を維持し、その運営を円滑ならしめるためである」(最高裁昭和二八年一一月二〇日判決、行裁例集四巻一一号二七三〇頁)と判示しているのも懲罰事由に該当するか否かは議員の議会における、言動を外形的に判断すべきことを示しており、いやしくも議員の発言内容にたちいることを認めているものではない。

(四)、本件除名処分の理由は前記のとおり申立人の発言の内容を問題とし、その是非を論じていることは明白であつて、その発言が右にいわゆる議会の秩序や運営を害したり、品位をそこねたということは全くないのであるから、本件除名処分の違法性は既に明らかといわねばならない。

二、本件除名処分は違法な懲罰動議にもとずいて行われたものであり、重大なかしがある。

八尾市議会会議規則第一一八条によれば懲罰動議は文書でもつておこなうことを要し、かつ懲罰事犯があつた日から起算して三日以内に提出しなければならないことになつている。

しかるに昭和四四年六月二八日に、大村清市議外七名から提出された懲罰動議なるものは「その理由」として「議員斉藤俊一君は本市が重要施策の一つとして推進している同和行政に対し予断と偏見から来る差別的発言並びに地区住民を扇動し混乱におとしいれ、部落解放同盟組織の分断を計り、同和対策事業特別措置法の精神並びにこの法律制定の根源になつた同対審答申を尊重するとする本市議会の立場にそむき関係市民から多くの批判をかい、いちじるしく議会の名誉を傷つけたことによる。この行為は、明らかに会議規則に違反するものと認められる」と記載されているのみである。

右の理由によれば、懲罰の対象となる事実は何時如何なる場所における、如何なる言動か全く不明であるが、それが、本件代表質問を対象とするものではなく、それ以前の議会外における言動を対象としていることは明白であるといわなければならない。

そもそも議会の議員に対する懲罰は議場又は議会における議員の言動を対象とすることに限定されており議会外の言動はいかなる意味でも懲罰の対象とはなしえない。

従つて本件の懲罰動議は右の点に反しその動議自体が違法無効のものであり、これにもとずいてなされた本件除名処分も重大なかしあるものとして取消されねばならない。

三、本件除名処分には何らの合理的理由もない違法がある。

(一)、本件除名処分の理由は前記第二、二、三記載のとおりであるがかかる除名理由には合理性がない。

すなわち、その論旨の〈1〉「住宅ができているのに入居できない」ということを批判することが「部落内の苦しい解放運動の実情を理解しようとしない偏見にみちた行為」であるとの主張は、その理論自体に一環性もなく、結びつくはずもない。

〈2〉同和問題に対して「市行政の怠慢云々」という指摘には「大きな誤りと矛盾」があるというのであるが、これも仮りに誤りや矛盾があつたとしてもどうして懲罰の理由になるのか、また「誤りや矛盾」について一体誰れがどのような判断基準にもとづいてなしうるというのか何らの合理的な論証ができる性質のものではない。

したがつて、右の〈1〉〈2〉のような発言をとらえて、議会の品位を傷つけるものだという事件除名理由は、その主張自体において理由のないことは明白である。

(二)、そもそも議員の地位は、直接有権者の選出にかかるもので、現行法制下これほどその地位の安定したものはないのである。(その身分の保障は裁判官以上のものといつて差支えないが、それは右のように住民による直接選出に基礎をおくものである。)かかる議員に対する地位のはく奪である除名には、特に慎重でなければならない。

すなわち、選任権者である住民による解任請求(リコール)でなくいわば「政敵」にあたる同僚議員の議決による除名処分は、一旦その行使が誤れば議会制民主主義を根底から破壊することになりかねない。

その意味で、八尾市議会会議規則一〇九条にいう「議会の品位を傷つける」こととは、一体どういうことをさすのかよく吟味されねばならない。除名に値するほどの議会の品位を傷つけるとは、議会の秩序運営を不能ならしめ議会制度そのものを破壊するような議場における言動に限定されるであろうが、本件代表質問にはそのような品位を傷つける要素は全くない。

四、本件代表質問は議員の職責に基く正当なものである。

(一)、そもそも議員の発言の内容に立ち入つて懲罰の対象とすること自体違法不当であること、本件除名処分には合理的理由もないことは前述したとおりであるが、次に代表質問の意図、内容を明らかにし、その正当性を明らかにする。

(二)、本件代表質問の意図は、申立人の代表質問中次の発言に要約されている。「議員として、同和予算を審議し、決定をなし、その結果同和事業が執行機関の手によつて具体的にどのように執行されているか、真に議会議決の趣旨に沿つて執行されているかどうか。部落住民の要求に見合つたかたちで執行されているかどうかこのことを点検し、監視することは、ひとり共産党議員団だけの任務ではなく八尾市議会全員の責任である。」と。

ところで八尾市西郡地区において、昭和四三年五月に竣工を見た同和向公営住宅八〇戸、昭和四四年二月に竣工を見た同住宅五〇戸が空室のまま、荒れ放題に放置されている事態が明らかになつた。

このような異常事態を目前にして、これを不問に付すことは議員として「全市民の信託に答える」ものでないと考え、申立人は本件代表質問を行つたものである。

(三)、そもそも本件代表質問でとりあげた西郡地区同和向公営住宅は地方自治法第二三七条以下に規定する公有財産に属するものであり、これが使用管理等については条例又は議会の議決を経なければならないことも同法の規定するところである。

従つて八尾市議会の議員の一員である申立人が、これが管理運営の責任について市長に質問することはまさしく議員の職責をつくすゆえんである。

(四)、ところで代表質問の内容は、別紙の議事録記載のとおりであるがこれを要するに、

1、同和向住宅の建設を促進せよ。

2、すでに竣工をみた住宅を放置している市長の責任を明らかにせよ。

3、機動隊導入問題について、警察の手をかりなければ、同和行政ができないのか見解を明らかにせよ。

ということにつきているのであり、どこからみても八尾市当局の行政責任を追求したのにすぎない。

これに対して市長も「住宅入居の大変おくれましたことにつきましては誠に申訳ないところでございますが、しかもこれが今回の問題要因になつていることにいたつては深くおわびするほかないのであります。」と答弁しておるところからしても明らかである。

五、なぜかような不法な除名処分が強行されたか。

――解同府連の不法な圧力とそれへの屈伏

(一)、本件除名処分はこれまで述べた通り全く何の理由もない処分であり明白な不法行為というほかはない。

なぜかような不法行為が議会の名において行われたか、以下その実態を明らかにする。

(二)、申立人が本件代表質問でとりあげた西郡地区住宅問題とは八尾市西郡同和地区に八尾市が同和対策事業の一環として公営住宅等の建設をすすめてきたが、昭和四三年五月末完成の八〇戸並びに昭和四四年二月二〇日完成の五〇戸計一三〇戸について、同年五月末になつても一戸も入居者がないのみか、入居選衡の手続すら行われず荒れ放題に放置されていたことに端を発する。

これを知つた申立人が、市長の管理責任を追求すべく六月九日の市議会運営委員において、日本共産党を代表して同住宅問題に関し質問を行う旨を通告した。その結果、六月一六日本会議(第一日)の日程第一〇に、申立人の代表質問がくみいれらていた。

(三)、これに対して部落解放同盟西郡支部長らは、右代表質問の結果、同住宅の入居選衡権を掌握することにより部落住民に対する非民主的な支配の実態を暴露されるものと独断し、これが代表質問阻止のため、次の如く不法な圧力を申立人並びに被申立人に加えてきた。すなわち、六月一一日、解同西郡支部長北村善蔵名義の通告書が八尾市議会議長に交付された。内容は一六日に申立人が右住宅問題について代表質問するならば、解同は府的規模で動員準備中であるがこれより生じるトラブルの責任はあげて議長にある。(即ち、トラブルが起るのを避けたければ代表質問をやめさせろ……との意)というのである。

六月一四日、議員控室で代表質問草稿作成中の申立人に対し、解同西郡支部執行委員植田隆哉外二名が、代表質問をやめさせようとして脅迫し、同日午後右廊下において、解同西郡支部副支部長長崎光治執行委員杉本茂吉、同植田哉、外数名が、代表質問をやめろと脅迫し暴行して加療一〇日間の傷害を負わせた。

かかる不法な圧力のため、六月一六日の本会議は、市長あいさつと、永年勤続議員に対する表彰のみを行い、すべての議員の審議に入ることなく流会した。

そして、最終日に予定されていた六月二三日、本会議(第二日)を開き、会期一四日の延長を決定するとともに、六月二七日の本会議(第三日)に、当初予定の一六日の議事をくみいれることを決定した。申立人の代表質問はこの二七日の日程第九に予定されたのである。

ところがこの代表質問阻止のため、解同府連は、六月二七日から二八日にかけて千名を越える被動員者集団を市庁舎内外に結集し、申立人が待機している議員控室の扉を蹴破り、ムシロをしいて廊下階段に坐りこみ、携帯マイクや口で、「差別者斉藤出てこい……社会的に抹殺してやる……これでも代表質問するか……」などと怒鳴らせ、控室からの出入を威迫するなど常軌逸するものであつた。代表質問にあたつては、議事堂外に用意してあつた傍聴席に入れない人々のための拡声機をとめさせて、申立人の代表質問が五〇名の傍聴者以外にはきこえないようにした。正しい代表質問を被動員者大衆に聴かせては府連幹部の立場がなくなつてしまうからである。解同府連幹部は、議長議員達に申立人の除名を要求し、申立人の懲罰に賛成しない者は差別者だ、という、いわゆる「客観的差別」なる理由を用いて威圧した。六月二七日午前九時三〇分頃から翌二八日午後三時頃、懲罰動議が通るのを見とどけるまで、延べ三〇時間にわたり代表質問が終つてからも夜を徹して市庁舎内外に千人以上の大衆をとどめたのは、除名要求の威圧以外の目的は考えられない。懲罰委員会継続中は、大動員はされなかつたが、解同府連幹部は市議会に現われて議長、副議長、懲罰委員達に除名を要求して威圧を加えた。

更に七月七日の本会議には二百人以上を動員して彼らの要求通りに除名されるか否かを監視した。かくして、本件の除名処分は強行された。

解同府連の不法な圧力とそれへの屈伏。本件不法行為――除名――の理由はこれ以外にない。

六、本件除名処分は議会制民主主議を根底から破壊するものであり、すみやかに取消されねばならない。

議員の代表質問を暴力と脅迫で止めさせようとし、それが果せぬや理由にもならぬ理由で除名するなどは古今東西を通じ、まさに前代未聞というべき恐るべきフアツシヨ的暴挙であり、議会制民主主議を根底から否定するものとして許してはおけない。そもそも地方議員は地方住民の参政権を託された代議制民主主議を遂行するというわが国憲法上重要な職責と任務をもつているものである。

従つて、議員の議会における審議権、なかんずくその質問権は何人によつても侵すべからざるものとして保障をされねばならず、もし、それが暴力と脅迫によつて侵害され、その状態が放置されるならば、それはわが国憲法上の大原則である民主主議の破壊を意味し、議会における憲法第二一条の言論の自由を圧殺し、否定することを意味する。

それ故こそ、憲法五一条は国会議員につき議院で行なつた演説、討論、又は表決について、院外で責任を問われないとして、その言論活動を不当な圧力から保障しようとしているものであり、このことは地方議員においても、いささかも異つて解すべき道理はない。

斯る、不当違法な狙いを待つ除名は議会の議決に名を借りた住民の参政権に対する否認であり、地方自治の本旨を破壊するものとして、その反民主主議的暴挙による侵害状態を一日放置すれば、それだけ民主主議が回復されがたく、圧殺されていくのであり、許すべからざる状態であることは多言を要しない。

よつて、本件除名処分は、すみやかに取消されねばならない。

第四、本件執行停止の緊急性、必要性について

一、本件除名処分については、地方自治法第二五五条の三の規定にもとずき去る七月一八日大阪府知事に対しその取消の審決の申請をし、さらに八月一八日、行政不服審査法第三四条の執行停止の申立てをなしたが、大阪府知事は、九月六日、右執行停止の申立てを棄却する旨決定し、なお、審決申請に対する結論もいつになるかめどがたたない状態である。

二、一方、被申立人議会の九月定例議会は、例年九月上旬に招集されることとなつているが、現に、九月一一日議会運営委員会が始まる予定であり、同月二〇日定例議会が招集される運びとなつている。

議会運営委員会委員である申立人はこの議会においてその運営に参加し且つ、申立人が議員としてその審議表決等に加わることができなければ、申立人がその有権者から信託された参政権を行使しえず、かつ、申立人の政治生命にも重大な損害を受けることとなる。

よつて、行政事件訴訟法第八条第二項第二号の「著しい損害をさけるため緊急の必要があるとき」の規定にもとづき本案訴訟を提起しかつ同法第二五条の規定にもとづき、執行停止の申立におよぶ次第である。

三、行政事件訴訟法二五条二項の要件について

行政事件訴訟法二五条二項は、裁判所が行政処分の執行を停止しなければならない場合の積極的要件として「(処分)より生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある」と認められることを規定している。そこで、本件処分に即して右の要件はどのような意議をもつかについて考察を加える。

(一)、言うまでもなく、本件処分は、申立人の八尾市議会議員としての資格を全面的に剥奪するものである。従つて「処分より生ず回復の困難な損害」の意義も、単に申立人が蒙る財産上の不利益の救済を目的として判断されてはならない。

申立人の二〇年に及ぶ議員としての活動により培われたゆるぎない住民からの信頼、それに基礎をもつ政治生命、後に述べる広汎な申立人の議員活動が一挙に阻害されることによつて申立人の蒙る多面的な不利益の救済が考慮されなければならない。

さらに申立人は、議員活動そのものを、唯一の、自らの社会的活動としているものである。議員資格を剥奪されることは、申立人の経済的生活の基礎を奪うものでもあり、回復することのできない損害を蒙ることは自明のところである。

しかし、同二項の「回復の困難な損害」の意義を考えるについてさらに重要な問題は申立人の担う公的機能が喪失せしめられていることからもたらされるところを中心的な要素として、その意義が論定されなければならないということである。

何故なら、申立人の議員たる資格は、多数の地域住民の信頼に基づき住民の自治体参政権を信託され、その代表として選出されているところに成立しているからである。申立人が本件処分により、選挙民たる住民に対し、その付託された政治責任を果すための議員活動を完全に停止されたことは住民の代表として果すべき任務の遂行を不能ならしめるものであり、回復することのできない損害を蒙つていることは明らかである。

のみならず、申立人に対する本件処分は、申立人を選出し、日本共産党を支持した多数の選挙民の有する参政権を剥奪する結果となることも明白であり、代議制民主主義を否定することに他ならず、これが回復することのできない損害を生ぜしめていることも多言を要しないところである。以下に引用する多くの先例が、議員の除名処分によつて、その議員の政治活動が完全に停止される場合はもとより、それより程度の軽微な出席停止処分についてさえも、償うことのできない損害を生ずることを肯認していることは、誠に当然な事理というべきである。

(1)、議員の除名処分に対する執行停止の先例

イ、懸案議案山積みのときに当り、野党第三議員団の財政予算関係の主査議員たる地位にある申立人の議員活動の完全停止は真に償うことのできない損害を生ずることは明らかである。(青森地裁昭和二七、四、二八決定、行裁例集三巻四号七九〇頁)

ロ、本案訴訟の判決が確定するまで申立人に対し議員たる資格を剥奪しておくことは、多数の選挙民によつて選出された議員としての職務執行を不能にし、つぐなうべからざる損害を生ずる。(釧路地裁昭和二七、六、三〇決定、前記例集三巻五号一〇三三頁)

ハ、判決の確定をまつていては申立人の地位は、今後長らく不安定のまま経過し、議員としての職務の遂行を阻止され、これが為、申立人の蒙る損害は到底つぐない難いものがある。(岡山地裁昭和二七、九、二二決定、前記例集三巻九号一八〇三頁)

ニ、議員の任期は決つているから、本訴の確定に至るまで議員の権利の行使を阻止せられれば、償うことのできない損害を蒙ること明らかである。(奈良地裁昭和二七、九、二四決定、前記例集三巻九号一八〇五頁)

ホ、議員がその職務を遂行するのは報酬その他の財産的利益を得ることを主たる目的とするのと異なり、選挙民より託された議決権を行使することにより市政に参与すること自体が主たる目的であり、議員その人の重大な権利であるという特殊性及び議員の任期が四年であることなどを合わせ考えると、本訴の確定に至るまで議員たる権利の行使を阻止されるならば、償うことのできない損害を蒙るおそれがある。(京都地裁昭和三〇、一二、一三決定、前記例集六巻一二号二九一七頁)

(2)、議員の出席停止処分に対する執行停止の先例

イ、本案訴訟が確定するまで議会に出席させないことは、合併問題その他多くの重要議案審議を控えて多数の選挙民によつて選出された議員としての職務執行を不可能にし、償うべからざる損害を生ずるおそれが大である。(岡山地裁昭和二八、三、一〇決定、前記例集四巻三号五六〇頁)

ロ、本案判決確定に至るまで議会に出席させないことは多数の選挙民により選出された議員としての職務執行を不能にし、償うべからざる損害を生ずるおそれが大である。(岐阜地裁昭和三二、三、一五決定、前記例集八巻三号四二〇頁)

(二)、議員の議員としての活動は任期をもつて時間的に限定されたものとして存在する。申立人が本件処分によつて四年間の任期中の一定の期間に亘つて、その資格を奪われること、及び後記のように目前に迫つた九月定例市議会において議員としての活動の機会を奪われることは、残る一年八ケ月の任期中に予定される数回の定例市議会での活動のうちの貴重なひとつの機会を失うことであり、これらは何れも回復することのできない損害を蒙るものというべきは当然であろう。

四、回復困難な損害を避けるための緊急必要性について

(一)、地域住民の諸要求と来たるべき九月議会

(1)、申立人は昭和二四年以来、頭書に詳述している通り、日本共産党の地方議会議員として住民の強い支持のもとに住民の要求の実現と福祉の増進のため献身的に議員活動をしてきたものであるが八尾市においては当面左記の如き地域住民の要求が焦眉の問題として提起されており、来るべき九月市議会には問題が山積みしている。

これらの諸要求はいずれもこれまで住民の利益のために献身的に活動してきた申立人に対し、その要求実現解決のため、議員として活動することが地域住民から強く要望期待されて来たつたものばかりなのである。

(イ)、老朽溜池の護岸工事(服部川部落及び山畑部落各一ケ所)

最近の連続降雨により、溜池が決潰寸前状態になつているところから、住民から申立人に対し、早期対市交渉要望が強く出されている。

(ロ)、山畑部落の児童公園設置問題

最近、交通事故が激増しているところから部落有の溜池を市に提供し、市の負担において早急に埋め立て、公園として遊具を設置するよう地域の父母から切実な要求が出されている。

(ハ)、農道拡巾工事(二件)

外環状線と国道一七〇号線を結ぶ農道及び山畑と服部川を結ぶ農道を拡巾する旨の関係農民の要求

近時、農民の運搬手段としては自動車が一般化しているが、現在の農道巾員では車の運行は極めて困難乃至不可能であるところから、関係農民が申立人にその拡巾工事早期実現を強く要望している。

(ニ)、新都市計画法に基づく区域指定問題

区域指定に当り、農民の利益を守り、その意見を市の機関に反映させるため、議会選出農業委員たる申立人に関係農民から寄せくる期待は大きく、この意見反映は緊急の問題となつている。

(ホ)、中高安小学校校舎増築と同幼稚園移転問題

小学校生徒数の増加に伴い、本年四月校舎増築実現の予算措置を今年度中にこうじる必要があり、増築予定地たる幼稚園の移転先の確保もあわせ解決しなければならないのであるが、その実現方につき、ひき続き申立人の議員活動が強く要望されている。

(ヘ)、住宅建設問題

同和向け公営ならびに改良住宅実現は申立人が行つた六月市会の代表質問に詳述するとおりの緊急且つ重要な問題であり、一般向け低家賃住宅の建設も住民の切実な要求であつて、その予算増額政府交渉が早急に必要とされるところである。

(ト)、八尾商工会事務所建設事業に関する市補助金獲保問題

八尾市の中小零細業者の営業を守る組織である商工会の事務所建設が業者から強く要望されている。

(チ)、国民健康保険税値上に伴う値上後の国保財政収支の点検問題

本年四月の国保税値上に伴い、国民健康保険運営協議会委員たる申立人は、その財源と給付の収支状況を点検することによつて値上が必要以上のものとなつてはいないか、給付内容は値上に見合つたものかを緊急に検討し、住民の利益を擁護する必要がある。

(リ)、メーデーにおける対自治体諸要求の実現活動問題

(ヌ)、近鉄大阪線八尾駅以東高架工事とこれに伴う同駅移転並に駅前整備問題

近鉄大阪線八尾駅以東が高架となる予定であるが、これに伴い同駅の移転と駅前整備問題がおこり、この計画が周辺店舗業者の意向を尊重せず、且つ大独占資本たる近鉄の財政負担が不当に軽減される可能性が出ているところから、総務常任委員たる申立人が住民の利益を守り、諸経費の独占負担の立場から早急にこの問題を解決していく緊急の必要がある。

(ル)、下水道事業受益者負担問題

申立人は下水道事業を受益者負担という美名のもとに、住民の負担において行おうとする市当局の不当行政を追求し、特に都市計画税をとつておきながら、地方税法第七〇三条三項に違反して水利地益税たる「受益者負担」を二重にとることは、違法であるとして住民の要求の先頭に立つて闘つており、この問題も負担金の住民賦課決定がすでになされているところから緊急の問題となつている。

(ヲ)、河川問題

寝屋川水系改修工事計画早期実現問題

第二寝屋川堀さく完成にともない同川に流れこむ平野川、恩智川、楠根川の改修が緊急に必要である。特に、申立人は大阪八尾市両市行政協力協議会委員として平野川流域の侵水地域たる竹淵地域の住民からその解決につき協力方を強く要望されている。

山畑川改修護岸工事

右河川は数ケ所にわたり決潰危険箇所があり、今までも度々決潰のため附近住民が甚大な被害をこおむつているところから護岸工事が強く要求されている。

(ワ)、道路関係(平野、中高安線問題)

右道路は近鉄山本駅附近の五月橋以東で道路が切断状態のままとなつており完徹されていないため、附近住民からこの完成方を強く要望されている。

(2)、前記諸要求はその殆んどが予算措置を伴うのであり、申立人は九月議会に於て理事者提出の補正予算案に対し、総務委員会、本会議に於て意見を述べ審議に参加し、表決に加わり、前記住民の諸要求を実現すべく予算組替えの修正動議を提出する等重要な活動をすすめようとしている。

(3)、前記諸要求実現のために、住民の請願活動も進められようとしており、申立人はその紹介議員としても強く期待されている。

(4)、申立人は片岡まさ議員と共に日本共産党議員団を構成し、議会運営委員会に複数議員団として参加する資格を有しているが、本件除名により日本共産党議員団は前記資格を失なつてしまつた。

(5)、九月定例議会を目前にひかえた現在、前記諸活動の準備調査のためにもつとも重要な時期である。加うるにすでに九月一一日、議会運営委員会が開かれる予定であり、同月二〇日定例議会が招集される運びとなつているこの時期は、申立人にとつて決定的な意議をもつに至ることは明らかである。

日本共産党議員である申立人の活動が、日常継続して行なわれ議会の内外をとわず奪斗していること、それが真の議員活動であることはすでに述べたとおりであるが、議会活動の上でも前記の通り極めて重要な時期に当面しており、一刻も早く本件処分を停止させなければ、回復し難い著しい損害をこおむることは火を見るよりも明らかである。

(6)、更に申立人は、議会選出の農業委員であり、八尾市においては新都市計画法による区域指定の時期が切迫しており、その指定は地域住民(特に農民)の利害に大きな影響がある。

議会選出農業委員である申立人はその職責上右指定について都市計画審議会委員に選任されることはほぼ間違いのないところであり、申立人は農民等の利益を守るにつき重大な職責を果さなければならないものであるが、本件処分により農業委員の資格を失うこととなり、著しい損害を受けることは明らかである。この事情は行政協力特別委員、国民健康保険運営協議会委員についても同様である。

(二)、政治生命の抹殺

申立人は日本共産党議員として誇り高い議員活動歴を有している。

本件処分により申立人はその選挙民に対する職責の遂行、政治活動報告、住民諸要求の結集と議会への反映等の面で重大な支障を生じ、政治生命に真に償うことのできない損害を受けることは明らかであるが、殊に議員の任期が四年間に限られており、申立人の残り任期が一年八ケ月であることを考えるならば、申立人が将来、審決手続において除名処分が取消されるとしても、才費等の損害回復については格別、議員としての地域住民に信託されて行使すべき諸活動の全面停止は決して回復することのできない著しい損害であることは極めて明白である。

(三)、本件処分の如き違法状態は一日も早く停止されなければならない。

(1)、本件除名処分は、前記第一で述べた通り、議会の議決に名を借りた地方政治史上前例のない反民主主義的暴挙である。

それはまた、議会手続に籍口して強行された申立人に対する名誉毀損であり、犯罪行為とさえいえる不法行為である。

かかる不法きわまる暴挙を見逃がし、違法状態を放置することはそのこと自体回復すべからざる損害を日々増大させていくものである。

それだけに本件除名処分の如き違法状態は一刻も早く停止されなければならない。もしこれを放置するとすれば、地方議会が議会外一部勢力の暴力と脅迫による不法な圧力のもとにじゆうりんされることを認めることとなり、且つそれを助長することにもなるであろう。

(2)、本件除名処分の違法性は、ただ単に申立人個人の問題として存在するのではなく、憲法の地方自治の本旨を乱暴に破壊し、議会制民主主義の根本を否定しているところにある。

だからこそ本件除名処分のフアツシヨ的暴挙が行われるや、八尾市民のうちに重大な影響を及ぼし、わずか三日間のうちに市民一万余名が怒をもつて除名処分取消の要請署名にこたえたのであり、この市民の正当な意思表示はこれまた一日もゆるがせにすべからざる緊急の問題である。(参照青森地裁決定昭和二七年四月二八日行裁例集三巻四号七九〇頁)。

違法状態は一日放置されれば、それだけ民主主義が回復され難く圧殺されていくのである。

すみやかに執行停止を求める次第である。

(四)、なお付言すれば、行政事件訴訟法第二五条二項は、執行停止についての消極的要件として「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのあるとき」を定めているが、すでに述べたところから明らかなように、本件除名処分は憲法の定める地方自治の本旨にもどり、議会制民主主義の根本を否定するものであり、一日も早くかかる処分によつて惹起された違法な状態、それによつて申立人のこおむる損害を避けることこそ、公共の福祉の理念に合致するものというべく、およそ本件処分についての執行停止が公共の福祉をそこなう重大な影響を及ぼすなどとはとうてい考えられないところである。

さらに同項は「本案について理由がないとみえるとき」は執行停止をしない旨を定めている。

本申立書第一に記載したように、本件除名処分の違法、無効であること明白であり、「本案について理由がないとみえるとき」には全く該らない。

いずれの点からみても、本件処分の執行を停止すべき緊急な必要性が存在し、一日も放置し得ない事態である。

五、ちなみに、申立人は、先に本件除名処分の執行停止の申立を審決手続を経ることなく御庁に対してなした(本年七月八日申立、御庁第二民事部昭和四四年(行ク)第一七号)ところ、同裁判所は、

〈1〉「右除名処分により申立人が議員の資格を剥奪され、議員としてのこれらの職務執行並びに日常活動が不能になることは明らかであるが、議員の職務として基本的で重要なものは、議会における質疑、討論、報告、その他の発言並びに表決による意思決定に参与することであると考えられるところ、………八尾市議会は現在休会中で、九月に開催される次期定例議会までは議会が召集される予定がないことが認められ」るとして、その緊急性を否定し、

〈2〉「地方自治法第二五八条によつて審決手続に準用さるべき行政不服審査法第三四条には「執行停止の規定も設けられており、同条第六項には『執行停止の申立があつたときは、審査庁はすみやかに執行停止をするかどうかを決定しなければならない』と規定されているのであるから、申立人が現在直ちに前記審決の手続を全く省略してまで本件本案訴訟を提起しなければならない緊急の必要性があるとは認め難い」として、七月一七日右執行停止申立を却下した。

申立人は、右説示に従い、七月一八日大阪府知事に審決申請を行ない、さらに同手続中において八月一八日行政不服審査法三四条四項に基いて、執行停止の申立をしたが、大阪府知事は九月六日不当にもその申立を棄却し、その理由として述べるところは、行政不服審査法三四条、地方自治法一三五条三項(除名手続)の規定そのものを羅列したうえ、申立人の執行停止を求める理由については、何ら判断するところがなく、単に効力を停止する緊急の必要性がある場合に該当しないというにすぎない。かかる棄却決定は、審決手続上の審理の結果を一切かえりみず、予め準備された結論を棄却決定の書式に従つて体裁をつくろつたものにすぎない。

因みに、大阪府知事は申立人らに対し、大阪府知事としては、議会の行なつたことについては、その処分の効力の停止をすることは殆んどあり得ず、むしろ裁判所がその可否を判断するところに委ねたい旨を言明し、さらに、右審決の結論もいつ出されるか全く見透しがたたない状態にある。

しかも一方で、九月市会は目前に迫り、九月一一日議会運営委員会が開かれ、召集日も決定されんとしている。御庁の前記決定にもいう議員の基本的かつ重要な議会活動の緊急性は、まさに焦眉の急なることを明らかにしている。

かくして、右決定にいう緊急性に関する二つの要件は、何れも充たされたものであり、ここにすみやかに本件除名処分の執行停止がなされるよう申立に及んだ次第である。

疎明方法〈省略〉

別紙(二)

申立補充書

第一、本件除名処分の違法性

一、「無礼の言葉」に該当するか否かは、議員の発言そのものを客観的に判断して決せられねばならない。

(一)、本件除名処分が、本会議での代表質問を対象にしてなされたものであることは、当事者間に争がない。

ところで、被申立人は、明らかに申立人の代表質問における発言の内容を問題とし、その是非を論じ、恣意的、主観的判断にもとずいて申立人の発言を、議会の秩序や運営を害し、品位をそこねたものときめつけているのである。

そして、右判断を正当づけるため、札幌高裁昭和二五年一二月一五日の判例(行裁例集一巻一二号一七五四頁)を引用してこの判旨は、使用された言葉を単に外形的に判断してはならないと厳に戒しめているものだと強弁しているのである(意見書第二、一(五)七丁裏から八丁)。

しかしながら、被申立人意見書における右判例の引用は、全くその判旨を誤解し、被申立人に都合のよいように部分的に引用したにすぎない。判決要旨を正確に引用すれば次のとおりである「地方自治法第一三二条にいわゆる「無礼の言葉」とは、議員が会議に付議された事故についての自己の意見や批判の発表に必要な限度を超えて議員その他の関係者の正常な感情を反発する言葉をいゝ、このような意見や批判の発言である限り、たとえ、その措辞が痛烈であつたがために、他の議員等の正常な感情を反発しても、「無礼な言葉」を用いたものと解することはできない。

(二)、そして、前記判決理由の重要部分を詳細に引用すれば、まず理由は議員の発言が客観的に判断すべきことを強調して、「議員が果してどんな発言をしたかを確定することは事実問題であつて、裁判所は当事者間に争いのある限り、証拠によつて、これを認定するものであるが、その認定にかゝる発言が果して、同条にいう無礼の言葉を使用したことに該当するかどうかは、法律問題であつて、その発言が客観的に判断して無礼の言葉であると解しえない限り、たとえ、議会がこれを主観的に無礼の言葉であると解して懲罰を科したとしても、右懲罰処分は違法の処分として取消を免れないものである」と述べているのである。

(三)、つづいて、同判決は、議員の議会における言論の自由の尊重にふれて、無礼の言葉に該当するか否かを判断するについて、特に注意を要するとして、次のごとく判示しているのである。

「言論の自由は、日本国憲法の厳に保障するところであるが、とりわけ普通公共団体の議員はその住民の代表として選挙せられ、議会において言論をすることをその重要な職務とするものであつてその言論については、他人の私生活にわたるものを除き、十分にその意を尽し、民意を反映せしめなければならない。ゆえにその発言を無礼の言葉であるとして議員に懲罰を科するには慎重の考慮を要するのであつて、もし、かようの懲罰権が濫用されるならば、議員の言論はやがて自由を失い、かえつて議会の使命の達成を阻む結果を紹来するものである。

(四)、右のような正しい見解を示した後、被申立人も引用している「無礼の言葉」の意義についてふれているのであるが、判旨は、被申立人の述べていることは全く逆のことを述べていることに注意しなければならない。

すなわち、

「さらに同条の適用についてなお注意を加えると、同条は、もつぱら議員の議会における発言のみに依拠して、それが無礼の言葉であるかどうかを判断すべきものであつて、その議員の議会外における行動は、その発言の意味を正確につかむため、これを考慮に入れるのは格別、その行動自体を斟酌してこれを決することは同条の趣旨に反するものである」としつゝ、

「なお、同条にいう、無礼の言葉を解するのに社交上の儀礼を標準としてはならない。かような儀礼に反する言葉をすべて無礼の言葉というならば、議員の言論の自由は著しく制約せられてしまうであろう」として無礼の言葉の解釈に制限を加えているのである。こうして制限的に解釈しなければならないことを前提にして「議員の発言が無礼の言葉であるといわれるには、議員が附議された事項についての意見や批判の発表に必要な限度を超えて、議員、その他の関係者の正常な感情を反撥する言葉であり、附議された事項について自己の意見を述べ、又は他の議員等の意見等を批判するについて必要な発言であるかぎり、たとえ、その措辞が痛烈であつて、これがため、他の議員等の正常な感情を反撥しても、それは議員に許された言論によつて生じるやむをえない結果であつて、これを以つて議員が同条にいう無礼の言葉を用いたものを解することはできないものである」としているのである。

(五)、右判決理由の引用に明らかなごとく、地方自治法第一三二条の規定する「無礼の言葉」かどうか、即ち議会の規律権にもとづく懲罰理由となるべき言動かどうかは、その言動を議会が主観的に「無礼の言葉」あるいは懲罰事由にあたると解しても、その発言が客観的に判断して「無礼の言葉」と解しえない限り、それを理由とする懲罰処分は違法となるのである。

対立する思想、対立する政治的信条、対立する政策をもつて臨む議員の存在を前提とする議会における言動についてはそれらの対立、相違を理由に懲罰権は行使されてはならないのである。

二、法一三五条によれば、懲罰の種類として、公開の議場における戒告、公開の議場における陳謝、一定期間の出席停止、除名という四段階があり、なかでも除名は議員にとつて死刑にも等しい重大な不利益をもたらすものである。

申立人は本件代表質問について、事前に各派の代表議員で構成される議会運営委員会にその内容を明らかにして了解をえたばかりか、右代表質問によつて市の行政責任を追求された八尾市長は全面的に自らの非を認め、陳謝の答弁をしたという事情にある。

にもかゝわらず、右代表質問を行つた申立人に対し、被申立人がほしいまゝに除名処分をあえておこなつたのは懲罰権の著しい濫用といわねばならず、いづれの点からみても本件処分は違法たるをまぬがれない。

第二、本件執行停止の緊急性について

一、被申請人は回復の困難な損害を避けるための緊急の必要性について、個人の権利救済の必要性という観点から検討されなければならないと主張するが、右は申立人が昭和四四年九月八日付申立書第四に詳述した如く明らかに謬論である。のみならず、明らかに議員の懲罰処分に関しても、執行停止命令を認めている法意に反するものである。回復の困難な損害が個人的損害のみをさすか、他人の損害又は一般公共の損害をも含むかについては多少の議論はあつても、申立人が公職者としての職権の行使に関して受ける損害は、一般に右の規定にいう損害と解せられていることは疑問のないところである。申立人が八尾市議会議員としてのすべての権能を奪われることによつて、回復困難な損害を蒙るに至ることは疑問の余地のないところである。(最高裁判所事務局編「行政事件訴訟十年史」一七一頁、同所引用の東京高、昭三二、七、一七決定、行裁例集八巻七号、浅賀栄著「行政訴訟実務総攬七九頁、同書引用の最高裁判所昭和二八年一月一六日決定行裁例集四巻一号一四六頁)

二、被申立人は昭和四四年九月一〇日付意見書第四、七において、執行停止を認めなかつた裁判例を数々あげているが、これらの例を検討すると、いずれも本件事案について適切なものではない。

(一) 名古屋地裁昭和二八、一二、一行裁例集四巻一二号及び大阪高裁昭二六、一、一四、行裁例集二巻二号は、いずれも議会の行う除名処分には執行力が併わないと解し、従つてその執行(効力)の停止ということはあり得ないとする独自の理論的前提をたてたところから導かれた結論であり、もともと緊急性、必要性の判断にも立入つてはいない事例に属する。また名古屋地裁昭、二九・六・九決定、行裁例集五巻六号はそもそも取消理由の存在について疎明を欠くが故に申請を却下したのであり、やはり緊急性、必要性の判断を受けるに至らない事例である。

(二) 仙台高裁昭二七・九・四決定、行裁例集三巻九号の事件は後記、福島地裁決定の抗告事件であるが、判示によれば「(除名された議長の提起した)取消訴訟の判決確定前に後任議長が選任される可能性があるとしても………償うことのできない損害を避けるための処分の執行を停止すべき緊急の必要性がない」というのである。しかし注意すべきは、右は「後任議長を選挙しようとしていることにつき疎明がない」から緊急の必要性がないと判示しているのである。

従つて後任議長の選任という事態を一般的抽象的に予見し得てもそれだけで緊急の必要性を満たすものでないことを判示ししたに止まるのである。

(三) 盛岡地裁昭三一・七・一九決定、及びその抗告審である仙台高裁昭三一・七・二〇決定、何れも行裁例集七巻七号の事案は議員が議会の議決に反して議員の地位を利用して金一〇万円を地主に与える旨の秘密的取引行為をしたことを理由に除名されたものであるが、右二つの決定は除名処分自体違法でないと判断して申請を却下したものでやはり緊急性、必要性について判断する余地のない事案である。

(四) 秋田地裁昭三三・一・二七決定は、回復することが困難な損害とは、個人的な損害に限るべきであるという、独自の見解に立ちつゝ、右につき疎明がないと判断したものである。

しかし申立人の蒙る回復することが困難な損害とは、他人のさらには一般公共の蒙る損害をも含むことについては多くの他の判例の示すところである。(金沢地裁昭二四・一・二八決定、月報追録四八三、大津地昭和二七・一二・四決定、行裁例集三巻一一号など)

(五) 福島地裁昭二七・三・一四決定、行裁例集三巻九号の判示によると、右事案について申立人の除名理由とされたところは、申立人が当該議会の議長でありながら「一部議員は町当局と馴れ合い町民多数の生活をじゆうりんせんとしていると誹謗した文書を、議長の名を用いて町内各所に貼付した」というのであり、右が「除名に値するか否かは本案を候つて決せられるべき問題である」としながらも執行停止をしなかつたものである。即ち「相当の納得すべき事情が存在しない限り停止すべきでない」という判断も前記の事実を理由とする除名処分が取消される可能性の乏しいことからもたらされたものというべきである。

(六) なお付記すれば被申立人は意見書第二、一(四)において(六丁裏)松山地裁昭三〇・一・二七判決を引用、「村議会で決した村政の重要性問題につき、議会の基本的方針を知覚しながら、挙村一致で臨むべき議会の公正な運営に対する足並を乱す行為は議場外の行為であつても懲罰を免れない」としてあたかも本件事案についても右と同様の趣旨が妥当する場合であると解すべきもののように主張している。

しかるに右判決の具体的事案を些細に検討すれば、こゝでの議場外の行為とは、既に原告を含む、村会全員一致で議決している国有林の払下げ問題につき、村が国と接渉している最中、原告が右議決に相反する組織、経営機構による産業組合を発起したうえ、村民に対して印刷物で右組合への加入を呼びかけ、しかもそれが村民の一部にあたかも議会の方針であるかの如き観を抱かしめた行為をさしている。

しかも原告の画策は村の払下げ交渉に困難をもたらすことが予想されたゝめ、村議会はこれを非難して、印刷物の撤回を求め、反省を促がしたにも抱らず、原告はこれに応じなかつたというのである。

これについて判示は、議会の存立活動を密接な関連を有する議会外の行為でも、その議会の活動を妨げ強いてその権威を失墜せしめる行為、即ち直接的に議会の権威保持の必要性に牴触する場合(直接相当因果関係ある場合)は懲罰の対象となり、右行為はこれに該当するとしたのである。

よつて明らかなごとく本件事案とは全く相違するものといわねばならない。

何ら議会の活動、その権威に直接牴触することがらをその内容に含むことがない本件について、妥当すべき先例とはならない。

代表質問による言論の内容そのものを理由に懲罰権を発動した事例は遂に見出せないところである。

別紙(三)

意見書

申立の趣旨に対する意見

本申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

との裁判を求める。

申立の理由に対する意見

第一 申立の許否については議会の判断を充分尊重されたい。

一 国会議員の除名処分については、司法審査は許されないと解するのが通説であり、地方議会議員の除名についても国会議員の場合と同じく内部紀律の問題で裁判権の対象の外にあるとの意見もある。

二 仮りに前項の主張が認められないとしても議会の除名処分は行政事件訴訟法第三〇条にいう裁量処分であるから、その適否の判断については議会の判断が尊重されなければならない。

三 また、行政事件訴訟法第二五条第一項は、「処分の取消の訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。」と規定し、いわゆる処分の執行不停止の原則を宣言している。

いうまでもなく、これは処分の取消の訴えによつて当然処分の効力、処分の執行等を停止することになれば、行政権の作用に重大な影響をおよぼし、行政の円滑な運営を妨げ、公共の福祉に反するのみならず、濫訴の弊害を生ずるおそれがあるからである。

元来、執行停止は、性質上行政作用に属し、法律により特に裁判所に賦与された権限にすぎないものであつて、当然には、司法権の固有範囲に属さないものである。

さらに、執行停止は、元来行政作用に属し、司法権の固有範囲外のものであり、しかも、これが行政庁の公権力の行使に当たる行為の効果を停止あるいは阻止するという行政権の作用に強い影響を与えるものであるところから、民事訴訟法の仮処分制度には親しまない(行政事件訴訟法第四四条)もので、執行停止の特殊性からして、これが認められるためには、法律の規定する厳格な要件に合致した場合に例外的に許されるに過ぎないのである。

四 従つて裁判所において本申立の許否を判断するにあたつては、停止によつて申立人の免れる損害の性質、程度、発生の可能性の大小と他方においては、これにより生ずべき公共の福祉に対する不利益の性質、程度を慎重に比較考慮してご審理を賜わりたい。

五 判例にも

「行政処分の執行を停止するには処分の執行により生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があると認められることを要し、右事情が存しても執行の停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞れのあるとき及び内閣総理大臣が異議をのべたときはこの限りでない旨規定していることからうかがわれるように、執行停止の要件は極めて厳格である上に、地方自治法第百三十五条第二項は除名の議決には議会の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意がなければならないと規定して、特に手続の慎重を期している以上、右手続を経て成立した除名処分の執行は、相当の納得すべき事情が存在しない限り、停止すべきものでないと考える。本件において申立人の行為が、果して議会の品位を傷つけたものとして除名に値するかどうかは本案をまつて決せらるべき問題であり、本件除名の議決も出席議員二十二名のうち十七名の同意により成立していることからみて申立人の主張並びに疎明によつては未だ執行を停止すべき理由があるものとは認め難い。」(福島地裁昭二七、三、一四決定、行裁例集三巻九号)としてこの趣旨を明らかにしたものがある。

六 本件の除名議決は、昭和四四年六月二八日の本会議で懲罰動議が提出されたあと懲罰特別委員会が設置され、同委員会に審査を付託、同委員会は七月二日、四日、五日、六日、七日の計五日間にわたつて慎重審査をした結果、除名に値いすると判断し、昭和四四年七月七日同委員会の報告を受けた議会本会議において賛成三一名対反対一名(定員三六名、実人員三五名、実人員と票決数との差は本人一名、欠席二名)の絶対的多数でこれを可決したものである。共産党の議員一名を除き、各派一致して全部賛成に投票しているのである。

議会の紀律維持について与野党一致し、ほとんど全員一致に近いこのような議決をした議会の意思は充分尊重されなければならないと考えるのである。

七 このように全員一致に近い議決がなされたことは、申立人の発言が部落解放運動における明白な差別発言であることを、右議決に加わつた各議員が充分に認識して行つた結果によるものであることを物語る以外の何ものでもないのである。

被申立人が解放運動に対して、市当局者や、市内の民主的団体及び善良な市民の統一された念願として、超党派的に同和対策審議会答申の完全実施を悲願としていることは、衆知の事実である。

従つて、このような部落解放問題については、被申立人構成員たる議員としてその議決にしたがつて行動する責務を負うことは当然、少くとも同問題に関し、その統一された運動を分断し、分派活動を行うなど、部落の完全解放について市民の願いをいささかでも妨げる行為をすることは、これらの運動を全面的に支持する良識ある全市民に対して裏切り行為となるのみならず、これらの市民の被申立人に対する信任を失わせる結果を招来する因となるのである。

いうまでもなく、議会の尊厳、品位といつたものは、市民の議会に対する信任の上にこそ成り立つているのであり、単に議会内において、議員が礼儀作法を守り、規律を遵守するというだけにとどまらず、市民の議会に対する信任を裏切らないことが第一義的な議会の尊厳であり、信任であろうと思われるのである。

このような自覚の上に立つて、前述のとおり、共産党議員を除き全員一致で本件除名処分が行なわれたのであり、この一事をみても、本件除名処分が適法かつ有効であることを充分に推認させるものと云わなければならない。

第二 本件除名処分は適法である。

一 本件除名処分には、何ら法令、法令解釈適用を誤まつた違法はない。

(一) 本件除名処分は、別紙「本件除名処分の適法性」について詳述しているごとくの昭和四四年六月二八日の本会議における「発言」を対象としてなされたものである。

(二) 元来、地方自治法(以下単に「法」という。)第一三二条が「普通地方公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。」として品位の保持につき規定しているのは、本会議の議場および委員会の会場は公の問題を議する場所であるから、無礼な言葉や私生活にわたる言論、人身攻撃等によつて議場や会場の平静さが失われ、議会の円滑な運営が阻害されるのを防止するためである。言うまでもなく、議会は公の言論の府であるから、議会構成員たる議員についての言論の自由が尊重されなければならないことは当然のことであるが、またその自由が無制限のものであつてはならないことも自明である。

議会の構成員たる議員にとつて、議会の秩序を維持し、会議の運営を円滑に進行させることは本来的義務であるから、言論の自由に名をかりて会議の秩序を破壊するごときは、到底許されないのである。

若し、議員において、右の如き秩序破壊の言動に出た場合、議会は、その自律作用として当然その議員に対し制裁を加え得るのである(法第一三四条第一項)。

(三) 被申請人会議規則第一〇九条の「議員は、議会の品位を重んじなければならない。」との規定も、このような議会の自律作用を前提としているものであるから、右規則第一〇九条違反の事実とは、ひつきよう議員が合議体である議会に付議された事項につき、自己の意思や批判の発表に必要な限度を超えて議員その他の関係者の正常な感情を反撥する言動をなし、議会の品位をけがし、議会の権威を失墜させたり、議会の円滑な運営を阻害したりすることを意味するものと解すべきである。

(四) ところで、申立人の本件除名処分の対象となつた代表質問は、別紙「本件除名処分の適法性」において詳述する如く、同和問題についての差別的発言に満ち満ちていたものであつて、同差別的発言が同和対策審議会答申を尊重し、超党派的に解放運動を推進している被申立人の一貫した基本的方針に逆行し、故意的に市民を混乱させ、市民の部落完全解放の願いを妨げることにより、被申立人の構成員たる議員や市民の正常な感情を反撥させ、被申立人の品位をけがし市民の被申立人に対する信任を失わせ、被申立人の円滑な運営を阻害したことは明白であるから、これが右規則第一〇九条に違反し、懲罰の対象となることは疑う余地のないところである。

判例が、議員の場外の行為についてではあるが、「村議会が決した村政の重要問題につき、議会の基本的方針を知覚しながら、挙村一致で臨むべき議会の公正な運営に対する足並を乱す行為は、議場外の行為であつても懲罰を免れない。」(松山地裁 昭三〇、一、二七判、行裁例集六巻一号一二二頁)

あるいは、

「議会の議員に対する懲罰権は、議会自体がその秩序を維持し、その権威を保つためにする紀律権であるから、その対象となり得るものは議員の議場内の行為にのみ限らるべき理由はなく、たとえ議場外の行為であつても、それが議会の存立、活動と密接な関連を有し、その存立活動を妨げ、ひいてはその権威を害するようなものについては、懲罰を行い得るものと解すべきである。」(長崎地裁 昭二七、七、四判 行裁例集三巻六号一二五五頁)と各判示し、同行為が議会が超党派的に推進している基本的方針に逆行して、議会の運営を阻害したり、議会の権威を害したりするようなものであれば、懲罰を行い得るとしていることは、被申立人の本件処分が適法であることを裏付けているものと云わなければならない。

(五) 申立人は、議員の議会における言動が懲罰理由に該当するか否かは外形的に判断すべきであり、この言動(発言)内容に立ち入つてはならない旨主張するようである。

しかし、右申立人の主張は、地方自治法第一三二条、被申立人会議規則第一〇九条の法解釈を誤つた独断といわなければならない。

ましてや、申請人主張のごとく、使用された言葉を外形的に判断して、右会議規則第一〇九条違反に該当するか否かを決定することは、言論の自由が尊重されなければならない公の府である議会に、一般社会における社交上の儀礼をその判断基準として持込むことになり、ひいては言論の自由を制約することになり、到底許されるべきものではないのである。

たとえば、地方自治法第一三二条規定の「……無礼の言葉……」も単に社交上の儀礼を標準に外形的に判断されるにおいては議員たるものその重責を全うすることができなくなるであろう。

判例が、「無礼の言葉」の意義につき、「議員の発言が発言が無礼の言葉といわれるには、議員が附議された事項(それは、もちろん普通公共団体に関する事件である。)についての意見や批判の発表に必要な限度を越えて議員その他の関係者の正常な感情を反撥する言葉であ」(札幌高裁昭二五、一二、一五判、行裁例集一巻一二号一七五四頁)る旨判示していることは、その裡に、使用された言葉を単に外形的に判断してはならないと厳に戒しめていることが窮えるのである。

従つて、本件除名処分の対象たる申立人の本会議における「発言」を単に外形的に判断すべきではなく、被申立人の右に述べている意味から判断されねばならないのである。

(六) なお、申立人が引用している判例(最高裁昭二八、一一、二〇判例)は、申立人の主張の如く「言動」を外形的に判断すべきか否かにつき判示したものではなく、引用事例としては不適切なものといわなければならない。

ちなみに同判例の要旨は「地方自治法第一三四条が議員の懲罰を規定しているのは議会の秩序を維持し、その運営を円滑ならしめるためで、議員の個人的行為を規律するためではないから議会の運営と全く関係のない議員の議場外の個人的行為は、同条による懲罰の事由とはならないものと解するのを相当とする。」とするものであつて、申立人の主張とは何ら関係のないものである。

(七) 以上の如く被申立人は、申立人に対し、右会議規則第一〇九条にもとづき、同条の適法な解釈適用により、本件除名処分をなしたものであるから、何ら申立人主張の如き違法はなく、適法なものであつて、同処分を取消すべき理由は全く存在しないものと云わなければならない。

二 本件除名処分手続には、何らかしはなく、従つて同処分は適法である。

(一) 申立人の主張を要約すれば、本件除名処分の先行手続たる懲罰動議書の理由には、申立人の言動内容、時期、場所が明らかにされていないから、被申立人会議規則第一一八条に適合するか否か判断し得ず、同動議自体無効であり、本件除名処分は重大なかしがあり、取消されるべきであるというにある。

(二) しかしながら、右懲罰動議は、次に述べるところからして何らかしはなく、適法であると云わなければならない。

すなわち

右懲罰動議書には、懲罰理由として「―――いちじるしく議会の名誉を傷つけたことによる。この行為は、明らかに会議規則に違反するものと認められる」旨記載され、「この行為」の具体的内容として申立人が「―――本市が重要施策の一つとして推進している同和行政に対し予断と偏見から来る差別的発言」をなしたこと、さらに同差別的発言が「地区住民を煽動し、混乱におとしいれ、部落解放同盟組織の分断を計り、同和対策事業特別措置法の精神並びにこの法律制定の根源になつた同対審答申を尊重するとする本市議会の立場にそむき関係市民から多くの批判をかつた」ものであることが記載されているのであるから、懲罰動議書における懲罰理由の記載としては十分であると云わなければならない。

このことは、地方自治法および被申立人会議規則には、懲罰動議を提出するに際し懲罰理由としてどの程度具体的に掲げなければならないものか規定していないことの趣旨からして十分首肯し得るところである。

また、判例が、懲罰議決における懲罰理由の記載程度についてではあるが、「地方自治法及び会議規則には懲罰処分を付するに際し、その事由をどの程度具体的に掲げなくてはならないかを規定していない。

そこで抽象的にしろ、その理由が記載されている以上懲罰決議としてはそれで十分に適法であり、更に具体的な事由を掲げなくてもそのことだけで直ちに懲罰議決を違法ならしめるものと解することはできない。」(千葉地裁 昭三〇、三、二五判行裁例集六巻三号六六八頁 同旨判例 長崎地裁 昭二七、七、四判 行裁例集三巻六号一二五五頁)と判示していることも、被申立人の右主張を根拠付けるものと云わなければならない。

(三) 次に、右懲罰理由に申立人の差別的発言のあつた日時、場所が記載されていない点であるが、右に述べた地方自治法、被申立人会議規則の建前ならびに右懲罰動議書が提出された客観的状況からして右日時、場所の不記載が直ちに動議自体の違法をきたすものではなく、ましてや本件除名処分の取消事由となるものではない。

右懲罰動議が、申立人の昭和四四年六月二八日の本会議における代表質問後、同代表質問における言動の差別性を理由として、同日中になされたことは、同動議提出の客観的経緯からして明らかであるから、申立人の主張は理由のないものと云わなければならない。

(四) さらに、付け加えれば、被申立人会議規則第一一八条第一項は、「懲罰の動議は、文書をもつて所定数の発議者が連署して、議長に提出したければならない。」として、懲罰動議は文書をもつて提出すべき旨規定しているが、これも元来、動議の提出が、議員の議案の提出と異なり、文書をもつてすることを要求されないものであること(法第一一二条参照)や同会議規則が懲罰動議書にどの事項をどの程度に記載すべきか何ら規定していないこと等からして、厳格に解すべきではなく、従つて本件の如く諸般の事情からして懲罰動議の理由が明確に特定し得る場合には、右規則第一一八条違反の問題とはならないものと云わなければならない。

(五) このように、右懲罰動議書が、右会議規則第一一八条規定の「三日以内」に提出されたことは明らかであるから、申立人の主張は、何ら理由のないものと云わなければならない。

以上のとおり、本件除名処分は、その理由、手続のいずれにおいても適法であるから何ら取消すべき理由は存在しないものと云わなければならない。

第三 申立人の本申立は、執行停止に必要な要件を欠き不適法なものである。

一 行政事件訴訟法第二五条第二項によれば、執行停止の要件の一つとして、本案訴訟が適法な訴えとして係属していることを要する旨規定されているが、本件本案の訴えは、行政事件訴訟法第八条第一項ただし書に違反し、不適法であるから申立人の本件申立は、この要件を欠き、不適法といわなければならない。

(一) すなわち、行政事件訴訟法第八条第一項は、処分の取消の訴えと審査請求との関係につき「処分の取消の訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消の訴えを提起することができない旨の定めがあるときはこの限りでない。」と規定し、いわゆる訴願前置主義を原則として廃止し、審査請求を前置する必要のある処分についてのみ、特に法律で審査請求に対する裁決を経た後でなければ、処分の取消の訴えを提起することができないとしている。

(二) 一方、地方自治法第二五六条は「……普通地方公共団体の事務に係る処分の取消しの訴えは、当該処分につき、当該普通地方公共団体の機関以外の行政庁(……)に審査請求、審決の申請その他の不服申立てをすることができる場合には、その不服申立てに対する決定を経た後でなければ提起することができない。」旨のいわゆる不服申立前置主義を規定しているが、同規定は、行政事件訴訟法第八条第一項ただし書の「……法律……」に該当するものである。

(三) 他方、地方自治法第二五五条の三は、「……普通地方公共団体の事務についてこの法律の規定により普通地方公共団体の機関がした処分により違法に権利を侵害されたとする者は、………市町村の機関がした処分については都道府県知事に審決の申請をすることができる。」旨規定しているが、同規定中の「普通地方公共団体の機関がした処分」に市議会の議員の除名議決が含まれることは明らかであるから、同除名議決に対する不服申立ては、右に述べた同法第二五六条の規定にもとづき

まず、都道府県知事に不服申立てをなし、この決定を経た後でなければ処分取消訴訟を提起できないのである。

(四) しかるに申立人が自認する如く、申立人のなした本件本案の訴え提起前たる昭和四四年七月一八日付大阪府知事に対する本件除名処分取消の審決申請につき、本件本案訴え提起までに何らの決定もなされていないのであるから、本件本案の訴えは行政事件訴訟法第八条第一項ただし書に違反し、不適法なものといわなければならない。

二 また本件本案の訴えは、行政事件訴訟法第八条第二項第二号の「著しい損害を避けるため、緊急の必要があるとき。」の要件を具備せず、不適法である。

(一) 申立人は、被申立人議会九月定例議会は、九月二十日招集される旨主張するが、同議会の招集日は九月十日現在、まだ確定していない状態であつて、招集されるとしても九月二十四、五日以降になる予定である。

また、申立人は九月十一日に議会運営委員会が始まる予定である旨主張するが、目下のところ同委員会が開かれる予定は全くない状況である。

(二) 仮に九月二十四・五日以降に定例議会が招集されたとしても、なお申立人には右の損害を避けるための緊急の必要性は存在しない。

議会は、議決権、調査権その他多くの権限を有するが、これらの権限は、議会自体に賦与されたものであつて、議会の構成員たる個々の議員に賦与されたものではない。

ただ、議員は、合議体たる議会の構成員として多数決原理もとに、議会の権限行使に参与するに過ぎないのである。

ところで、被申立人の構成議員数を見ると、定数三十六人、実人員三十五人(申立人を含む。)の合議体であり、申立人は、構成員三十五人のうちの一人に過ぎないのであるから、申立人が議員としての地位を回復しなくとも、合議体たる被申立人の適正な権限行使にはほとんど影響がなく、従つて、右の緊急の必要性は存在しないものといわなければならない。

(三) また、申立人主張のごとき調査、請願については国民(市民)であれば誰でもなし得ることであつて、議員たる地位になければできないことではないのであるから、損害はなく、何ら緊急の必要性もないものといわなければならない。

(四) このような状況であるから、申立人には避けるべき著しい損害もこの緊急の必要性もあるはずがないのである。

従つて、本件本案の訴えは、行政事件訴訟法第八条第二項第二号に違反し、不適法なものといわなければならない。

第四 申立人には、回復の困難な損害を避けるための緊急の必要性が存しない。

一 本件本案の訴えは、除名処分取消の訴えであり、抗告訴訟の一種である。抗告訴訟は民衆訴訟や機関訴訟のように公益を目的としているものではなく、行政処分を受けた個人の権利救済を目的とするものである。

行政事件訴訟法も、「抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。」として、このことを明確にしている。従つて、本件執行停止の申立における緊急の必要性も個人の権利救済の必要性という観点から検討されなければならないのである。

二 この点に関し、申立人は、むしろ申立人の公的な資格である議員の地位に重点を置き、「多数の地域住民の信頼に基づき、住民の自治体参政権を信託され」ていることを根拠としているようである。

しかしながら、申立人に対する本件除名議決に参加したのも、同様、「多数の地域住民の信頼に基づき住民の自治体参政権を信託され」た議員であり、これら議員が絶対多数で本件除名議決をなしたこともまた忘れてはならないのである。

従つて、この点の申立人の論拠は充分な理由を欠くものとして排斥されなければならず、むしろ本申立については、申立人が除名処分を受けたことにより、どのような個人的な救済が必要かという点の主張がなければならない。

三 しかるに、申立人が必要性に関し、例挙する事例は、八尾市行政上の問題であつて、申立人の個人の権利救済とは何のかかわりもない事柄であつて、本件の執行停止には、本質的になじまないものである。

四 仮に前項の主張が認められないとしても、申立人の列挙した事例については、申立人が除名処分を受けると否とに拘らず、被申立人としては議会の活動を継続しているものや、申立人個人の議員活動を欠くことにより、「回復の困難な損害」を生ずる虞れは認められないものなどであつて申立人の主張は理由がない。

(一) 老朽溜池の護岸工事

本問題については、当議会の建設委員会に属する問題であり、必ずしも申立人を欠くことにより、「損害」が生ずるとは思えないが、これはさておき、すでに本問題については、地元役員および住民の意見を直接に聴取するとともに、実態調査を行い、危険度と緊急順位に基いて、すでに護岸工事計画を完了し、逐次施行中もしくは準備を完了している。

(二) 山畑部落の児童公園設置問題

この問題については、昭和四十三年度に申立人から要望があつたが、部落から離れた山麓地にあり、児童公園として地理的条件その他面積などからみて児童公園として適正でなく、当局側も右の設置計画はないし、仮にこの点について議員活動の余地があるとしても、ひとり申立人の活動を緊急要件とするものではない。

(三) 農道拡幅工事

本問については、地図役員および申立人からすでに要望があり、市当局においては、すでに計画もすすめている。

(四) 新都市計画法に基く区域指定問題

区域指定の権限を有するのは、大阪府知事であつて、ただその指定にあたつて市長の意見を徴することとされている。

そして、六月の定例市議会では、市長の付属機関として「八尾市都市計画審議会」が設置され、関係の各種団体または住民から意見を徴する体制が整つており、この問題についても、申立人の議員の地位の存否に拘らず充分に処理されている事柄である。

(五) 中高安小学校校舎増築と同幼稚園移転問題

校舎増築については、昭和四十四年度に予算計上され、現在施行中である。

また、増築予定地は現在の幼稚園敷地をあてていないので幼稚園の移転は必要でない。

(六) 住宅建設問題

緊急度の高いものから実施されているが、この問題は、九月や十二月の定例議会のみで解決される程度のものでなく、長期的なものであつて、緊急性が到底認められない。

(七) 八尾商工会事務所建設事業に関する問題

八尾商工会事務所に市補助金を獲得させようという動きは共産党のみのもので申立人の議員資格に関係なく現段階は実現困難である。

(八) 国保財政収支の点検問題

本問について点検することは、すでに六月定例議会において決定ずみのことである。

(九) メーデーにおける対自治体諸要求の実現活動問題

本問については、革新系議員が全員で取り組んでおり、申立人ひとりの問題ではない。

(十) 近鉄八尾駅前の整備の問題

この点については、駅前整備対策委員会が設置されてこの問題に専従しており、申立人は、右委員会にも加わつていない。

(十一) 下水道事業受益者負担問題

本問は、議員の審議対象外のものであり、議員としては、たかだか市長に意見を述べることができるにすぎず、これが「回復困難な損害」に該当しないこと多言を要しない。

(十二) 河川問題

竹淵地域の浸水問題については、すでに府の方で対策を実施中であるし、恩智川は予算化され、着工実施中である。楠根川も同様である。

山畑川改修護岸工事についても、本年度を初年度として継続事業として実施中である。

(十三) 道路関係

そもそもが府の事業であつて、すでに見通しもつき工事も昭和四十五年度開通を目標に行なわれつつある。

(十四) 都市計画審議会委員選任問題

申立人は、右委員に選任される予定と主張するが、右審議会委員は昭和四十四年九月九日付で十六名委嘱ずみであり、同日第一回の会議が開かれている状況であるから、申立人が右委員に委嘱される可能性は全くない。

五 次に申立人が執行停止の認められた事例として引用する判例は、そのほとんどが事例として不適切なものである。

例えば「議員の除名処分に対する執行停止の先例」のうち

(一) イの青森地裁昭和二七、四、二八決定は、本会議における除名決議のための同意数が地方自治法第一三五条第三項の法定数に満たないことおよび懲罰特別委員会における決定が存在しないとする手続上の瑕疵を理由とするものであり、

(二) ロの釧路地裁昭和二七、六、三〇決定は、除名処分が地方自治法第一三四条規定の要件を欠除していること。除名決議成立に至るまで被除名者に弁明の機会を与えず秘密会の議場において除名決議のみをなし除名該当事由の説明がなかつたことは憲法、地方自治法、議事慣習に違反した決議であることおよび被除名者の行為が刑事法上の犯罪に該当するか否か司直の処断が確定する前に懲罰を科することは地方公共団体の議会の越権行為であること等を理由とするものであり、

(三) ハの岡山地裁昭和二七、九、二二決定は、懲罰委員会に付議せずに除名議決が行なわれたという手続上の瑕疵を理由とするものであり、

(四) ニの奈良地裁昭和二七、九、二四決定は、除名後補欠選挙の告示があつたため、補欠選挙前に除名決議の執行停止が必要であるとするものであり、

(五) ホの京都地裁昭和三〇、一二、一三決定は、前の会期中の行為につき、後の会期中に懲罰することは許されないこと等を理由として執行停止を求めたものであり、これら各判例の事案は、本件事案とは全く異なつているのである。

六 また、申立人が、「議員の出席停止処分に対する執行停止の先例」のうち、イの岡山地裁昭和二八、三、一〇決定は、除名事由としての被除名者が村住民としての資格において村長を被告として地方自治法第二四三条の二にもとづきなした納税者訴訟提起行為は、地方自治法第一三四条、同法第一三五条に該当しないこと。右除名事由に「議場無断退場」を付加したことは、会期終了後相当期間経過後のことであり違法であることおよび出席停止期間は当該議決をなす会期中に限定してなすべきに会期外にわたり懲罰を科すのは違法であるとする理由によるものであり、前記同様、本件事案を異にしているものであるから、不適切なものと言わなければならない。

七 逆に除名議決について執行停止を認めなかつた判例が多数存在するので、これを列挙すると、

(一) 執行停止の要件は極めて厳格である上に除名には特別多数の同意を必要として特に手続の慎重を期しているのであるから相当の納得すべき事情が存在しない限り執行停止をすべきでないとして却下したもの(福島地裁 昭二七、三、一四決定 行裁例集三巻九号)

(二) 判決確定をまつてはその間、相当の日時を要し、申立人の任期満了により償うことのできない損害を蒙るおそれがあり緊急の必要性に迫られているという主張があつたが却下したもの(札幌地裁 昭二五、一一、二二 行裁例集一巻一〇号、名古屋地裁昭二八、一二、一 行裁例集四巻一二号)

(三) 村内事情が町村合併の問題をはじめ、一般村政について申立人の活動を必要とするという主張があつたが却下したもの(大阪高裁 昭二六、一、一四 行裁例集二巻二号)

(四) 台風の被害激甚なる折柄、町政に貢献しえないことは選挙民に対し申訳けなく申立人の政治生命をも失う結果となり償うことのできない損害を生ずる虞れがあり、かつ緊急の必要性に迫られているという主張があつたが却下したもの(名古屋地裁昭二九、六、九決定 行裁例集五巻六号)

(五) その他緊急の必要性が認められず、除名の効力の執行停止申立を却下したもの(仙台高裁 昭二七、九、四決定 行裁例集三巻七号、仙台高裁 昭和三一、七、二〇決定 行裁例集七巻七号、秋田地裁 昭三三、一、二七決定 行裁例集九巻一号)

八 本申立は、本案について理由がなく、また本申立が認容されるにおいては、本件除名処分事由が、申立人の被申立人のみならず市当局、一般市民の悲願である部落完全解放問題に関してなされた差別的発言であるだけに、市民の間に混乱を生ぜしめ、被申立人に対する不信感を生ぜしめ、ひいては市政に重大な支障をきたすおそれがある等、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるから却下されなければならない。

以上のとおり、申立人の本申立は、いずれも理由のないものであるから、速やかに却下されなければならない。

以上

(別紙省略)

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